株式会社トランスエージェント

TACL 特別セミナー
「長寿企業の真髄に迫る~時代を超えて勝ち続ける企業の原理と行動 その志とインテグリティ~」

特別セミナー
「長寿企業の真髄に迫る~時代を超えて勝ち続ける企業の原理と行動 その志とインテグリティ~」 報告

開催名 長寿企業の真髄に迫る~時代を超えて勝ち続ける企業の原理と行動 その志とインテグリティ~
開催日時 2017年3月7日(火)13:30~17:30
主催 リーダーシップ・アカデミーTACL (株式会社トランスエージェント)

 2017年3月7日に特別セミナー「長寿企業の真髄に迫る~時代を超えて勝ち続ける企業の原理と行動 その志とインテグリティ~」をイトーキ東京イノベーションセンターSYNQAにて開催しました。

 セミナーは、講師として、新将命先生、後藤俊夫先生、TACL代表のピーターD.ピーダーセンが登壇し、パネルディスカッションでは特別ゲストとして株式会社イトーキ平井嘉朗社長が参加され、参加者、講師とともに熱い議論が繰り広げられました。セミナー会場として使用させていただきましたSYNQA(www.synqa.jp/)は、株式会社イトーキが2012年に開設した最先端の施設で、クリエイティブな発想が生まれやすい環境は、学びの深い場づくりの一翼を担っていました。

 最初にTACL代表のピーターD.ピーダーセンが登壇し、「時代を超えて勝ち続ける企業の条件 その志とインテグリティ」と題し、講演をしました。

 現在は超大手企業が不祥事を繰り返したり、大きな赤字を出し続けリストラを繰り返したり、VUCA(不安定 不確実 複雑 不明瞭)の時代と言われています。
 ただ、これは今に始まったことではありません。ピーター・ドラッカー氏が1970年に発表した著書『断絶の時代』でも言及していたようにいつの時代でも唯一言えることは、「未来を予測できない」ということです。

 しかしながらそうした状況下でも成果を上げ続ける企業があります。1つは京都議定書が調印された97年に、現在では当たり前となったハイブリッドカー「プリウス」を発売し、時代の潮流の変化を深く読み、高い社会性の仕事を通して業績を上げ続けているトヨタ自動車です。もう1つは、イノベーションを促進する「やってみなはれ」の文化を人事制度に組み込み、プレミアムモルツのヒットや角ハイボールでリバイバルブームを巻き起こしたサントリーです。このように、時代を超えて勝ち続ける企業には、どんな厳しい市況下においても早期の改善強化策の実施が、自然にできているという特徴があります。

その特徴は、表面に見える売り上げ・利益や製品・サービスではなく、水面下に潜む組織体質である3つのA(Anchoring Adaptiveness Alignment)によって表すことができます。3つのAは日本語で表すとアンカリング(Anchoring)、自己変革力(Adaptiveness)、社会性(Alignment)であり、この3つが高い水準で経営されている企業を“トリプルA”企業と呼び、先ほど例に挙げたトヨタ自動車やサントリーは、トリプルA企業であります。TACLがPwC社と合同で行った日系企業へのトリプルA経営に関する調査結果から、アンカリング領域では社内の職位によって乖離が起こっていること、自己変革力領域においては、イノベーションの仕組み化されていない点などが問題提起されました。

 次に日本経済大学教授の後藤先生に、「100年潰れない会社のルール 長寿企業に見る経営の真髄」をテーマにご講演いただきました。

 日本には100年以上続く会社:長寿企業が、2015年現在で25,321社存在し、現在も増え続けています。また、世界の長寿企業10傑のうち9社が日本企業で、世界最古の企業である578年創業の金剛組を始め、1000年以上続く企業が21社もあります。日本は世界1位の長寿企業大国です。
 長寿企業はファミリービジネスで発展してきました。ファミリービジネスと聞くと、マネジメントにおける弊害を想像される方が多いかもしれませんが、日本のファミリービジネスでは、現代企業経営で使用されている複式簿記や、番頭さん・丁稚などの教育システム、連結決算のようなマネジメントシステムが古くから確立されており、代々継承されてきました。
 長寿企業は常に安泰ではなく、存続の危機にさらされております。実際、世界最古の企業である金剛組は、ファミリービジネスから離れ高松建設の子会社となりました。常に存続の危機にさらされながらも、継続できる企業の定石は次に挙げる6つです。

 ①長期視点に立った経営
  短期10年 次期経営者への継承時間
  中期30年 自身が社長として仕事を成し遂げる時間
  長期100年 孫の代までに目を向けた経営の布石構築
 ②持続的成長の重視
  “身の丈経営”の実践。
  日本の長寿企業の最大目的は、“継続”。
  短期的変化に惑わされず、他人資本にも頼らない
 ③優位性の構築・強化
  長い時間をかけて、自社の優位性の構築・強化を図る
  拡大する場合は自社の強みを活かす周辺分野に特化
 ④利害関係者との長期的関係性
  長期的関係性を構築するための信用こそが企業の財産
 ⑤安全性への備え
  不況対応力の確保
  他人資本による干渉の排除
 ⑥次世代へ継続する強い意志
  家制度が法律上なくなっても、慣習として次世代に継続することを強く志向
  最近では、家を継ぐという意識が日本国内で少しずつ弱くなってきている。

 定石6つはどれも非常に重要なのですが、長く経営を続ける際に最も重要な成功の秘訣は“企業は社会の公器である”と志向することです。企業は「社会の公器」であるとは松下幸之助が提言したことで、その内容は、“経営資源は社会に帰属し、社会福祉に資するため経営者に一時的に預託されたものである”という考え方です。
 100年以上続く福島県いわき市の会社が、2011年の東日本大震災の際に、地域社会へ恩返しするチャンスであると考え、かまぼこを被災者に無料提供したことは、長寿企業が社会の公器を志向している最たる事例です。

 日本に、企業が社会の公器であることを志向し、長寿となる企業が多い理由として、商業道徳が古くから確立され、代々受け継がれていることも挙げられます。徳川8代将軍吉宗時代にまとめられた石門心学では、正当な手段による商業活動を良しとし、それに影響を受けたのが二宮尊徳、渋沢栄一です。その考えが昭和の時代に松下幸之助に受け継がれており、今後も受け継がれていくことが期待されます。

 最後は新先生に、「勝ち続ける組織をデザインするレジリエントリーダーの行動原則」というテーマで、講演いただきました。

 日本では1秒に4社姿を消している現状があり、そのような厳しい状況下でも、経営者は“会社をつぶさない”責務を果たさなければなりません。経営は我流でやって成功することもあるかもしれませんが、原理原則を学ぶことでより精度を高めていくことができます。

 アメリカは100年以上続く企業が11000社以上あり、日本に次いで世界2位です。アメリカは短期的な結果へフォーカスするイメージが強いですが、アメリカも長期的視点を持っており、国籍国境関係なく長寿企業には共通する部分があり、長寿企業づくりの黄金のループで表現できます。そのループは①経営者品質をスタートに、②社員品質・満足、③商品・サービス品質、④顧客・社会満足、⑤業績、⑥株主満足の6つの循環で回っています。

 ロシアの諺に“魚は頭から腐る”とありますが、企業は80%以上が社長で決まります。勝ち続ける組織となるためには、経営者品質を高めなければなりません。リーダーには5つの条件があります。それは①情熱②方向性③リーダーシップ④革新力⑤倫理性の5つです。

①情熱
 情熱には5つの種類があります。自ら火を燃やし続けられる自燃型、人に焚き付けられる可燃型、何も響かない不燃型、他人のやる気をそぐ消火型、他人に火をつける点火型があります。経営者が常に情熱を燃やし続ける為の3つの行動は、目的を持つこと、それに対して短期と長期の目標を設定し、時に点火人と会うことが挙げられます。
②方向性
 方向性は(理念+目標+戦略)+戦術で表されます。組織内に閉塞感や疲弊感が蔓延するのは、経営層が短期目標だけでマネジメントすることが原因の1つであり、リーダーは組織の未来について理路整然と語ることができなければなりません。
③リーダーシップ
 方向性を示す
 納得目標を立てる
 正しい権限委譲
 8褒め2叱り
 公正な評価と叱り(機会を平等に、処遇は公正に)
④革新力
 改善は継続であるのに対して、イノベーションは断続です。
イノベーションを起こすために、“将来の成功を妨げるのは過去の成功であること”を頭に入れておかなければなりません。また同時に“未来を予測する最大の方法は自ら未来を創造する”ことであることも頭に入れ、未来を語ることが必要です。
⑤倫理性
 ジョンソン&ジョンソンのジェームズパーク元CEOが残した言葉として、「経営に求められる能力・素質」が2つあり、それは、「平均を上回るインテリジェンスと極度に高い倫理性」を持ち合わせていることです。

 セミナーの最後は、イトーキ株式会社(以下イトーキ)の平井社長にご参加頂き、講師陣とともにパネルディスカッションを開催しました。

 平井社長には、冒頭イトーキについてご紹介頂きました。イトーキは創業から127年を数え、長く経営が続いている要因の1つとして、新たなものを広めたいという創業の精神が今もまだ社内に文化として残っていることが挙げられるそうです。

 パネルディスカッションでは、熱い議論が繰り広げられました。

 お客様は神様なのかという問いについて、「全てのステークホルダーを満足させることは難しく、志を共有したお客様と長くお付き合いする身の丈経営が長寿の秘訣であるため、供給側にもお客様を選ぶことができる」という後藤先生の意見に対して、新先生は「お客様は神様であることを大前提に、神様にも福の神と貧乏神がいる」と意見されました。また、平井社長は「お客様を能動的に選別することはしないが、社員の尊厳を傷つけるようなお客様とはお付き合いすべきではない、と判断してきた」と発言されました。このように様々なテーマについて三者三様の本音ベースの経営談が繰り広げられました。

 最後のQ&Aでも多数の質問が寄せられ、非常に内容の濃い4時間のセミナーとなりました。

 ご参加者様からは、セミナーに対して
・長寿企業について、多面的に論じられ、興味深かった
・4時間があっという間に過ぎました
・自社の経営幹部層に聞かせたい話でした
・素晴らしい環境(会場)とキャスティングを用意いただき、感謝しています
・パネルディスカッションは充分な時間があり、Q&Aも充実していてよかった
・講演者のバランスがよかった、全体の立て付けがよかった
・皆様(講師全員)の発言の至るところに、心に響く言葉があり、勇気づけられた
といった感想を頂きました。

 また、この4時間で学べたこととして、
・理念、志、原理原則、経営者の重要性を改めて確認できた
・理念の承継の重要性と難しさ
・経営者や経営品質の重要性、組織の方向性はトップから、魚は頭から腐る
・黄金のループ、人財の5つの型(自燃型、他燃型・・・)
・長寿企業の6つの定石、トリプルAの概念、アンカリングの重要性
・長寿企業の共通する点についてのお話を伺い、とても参考になりました
・「利益は結果である」という平井社長のお話
・長寿企業が、時には成長にブレーキをかけること
・「将来の成功を妨げる最大の敵は過去の成功である―GOOD!」
・平井社長の変化のスピードとopportunityの発見のお話
・三代先まで考えて経営すること
・極度に高い倫理観のお話
・競争の前に自分に勝つこと
・経営者は「方向性」を示す人

などと挙げて頂きました。